えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

『アヴリルと奇妙な世界』/「そして明日は?」

『アヴリルと奇妙な世界』

 ジャック・タルディ ビジュアル総監修、クリスチャン・デスマール、フランク・エキンジ監督『アヴリルと奇妙な世界』、2015年

 冒頭は1870年、ナポレオン三世とバゼーヌが科学者ギュスターヴ・フランクランのもとを極秘に訪れる。ギュスターヴは不老不死をもたらす究極の血清を開発しており、これが完成すればフランスはプロイセンに戦争で勝てるはずとナポレオン三世は目論んでいた。

 ところが爆発事故でナポレオン三世は死んでしまう。で、そこから架空の歴史が始まるのだけれど、皇帝が死んだ結果、普仏戦争は起こらず、そのまま第二帝政が継続したというのである。物語は1941年、ナポレオン五世の下で……。

 というのとは別に、世界中の名だたる科学者が謎の失踪を遂げ続けた結果、電気は発明されず、石油も燃料にならないままに時が進み、蒸気機関だけが発展を遂げて、といういわゆるスチームパンクの世界を舞台としている。

 ギュスターヴの息子のポップスとその息子のポールは秘密に実験を続けており、ポールの一人娘がアヴリル。両親が謎の失踪を遂げた後、残されたアヴリルが、ひとり血清の実験を続けている(相棒は飼い猫のダーウィン)ところから本当の物語が始まる……、と前振りがいろいろややこしい作品ではあった。

 正直に言ってしまうと、ジブリのアニメ、なかんずくは宮崎駿の作品を見て育った人には色々物足りなく見えると思う。サスペンスしかり、アクションしかり、人物造形しかり。だが、それはそれとして、私個人としてはこの設定に興味を引かれずにはいないのだ。もしナポレオン三世が死なず、第二帝政がそのまま続いていたら……?

 しかしその場合に、第二帝政が存続するというのは本当だろうか? と思ってしまう(思っても仕方ないけど)。第一に、ナポレオン三世はすでに病気で弱っていたし、戦争したくて手ぐすね引いていたのはビスマルクである。いやウジェニー皇妃をはじめ、フランス国民の多くも戦争を待ち望んでいたのでもある。であれば皇帝がどうであれ、結局は普仏戦争は起こったのではないだろうか? というのが一つ。

 もう一つ思うのは、仮に戦争が起こらなかったとしても、やはり第二帝政が存続したかどうかは疑わしいのではないか、ということである。

 第二帝政の後半期は自由主義的な方向に振れていたから、うまく民衆のガス抜きをして、イギリス的な立憲君主制の方向に持ち込めた可能性はあるかもしれない。しかしそれより先に民衆の不満が爆発して革命が起こる、というほうが遥かに蓋然性が高いのではないだろうか。七月革命二月革命に次ぐ三度目の〇月革命。「二度あることは三度ある」 Jamais deux sans trois という諺はフランス語にもあるのだ。フランスは大革命の国であり、この国がいずれは共和制に行き着くのは、半ば宿命的なことではなかっただろうか、という気がすごくする。

 だからどうした、ということもないのだけれど、フランス人の歴史改変SFの発想のあり方が興味深く思われたので、つられてあれこれ妄想に浸ったのだった。1870年に起こったのがパリ・コミューンでなく革命だったら、ゾラは、モーパッサンは、ランボーは、どうなっていたのだろう?

 

 350人の著名人が参加して、フランスの病院を支援するキャンペーン・ソングが4月初めに公開された。タイトルは "Et demain ?"「そして明日は?」。

 Band Aid のフランス版 Chanteurs sans frontières 「国境なき歌手団」以来の伝統とも言えるし、なんというか、フランス人はこういうのが好きなんだなあとしみじみ思う。これも一つの国民性の表れなのだろう。

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 Et demain on fera quoi ?

On recommencera, l'homme est comme ça

Et demain, ça sera nous les maîtres du jeu, un point c'est tout

 

S'aimer encore, danser encore

Sourire encore, s'embrasser plus fort

Pleurer encore, souffrir encore

Et tenir encore, et chanter plus fort

Ça fait du bien

("Et demain ?")

 

そして明日は何をする?

また始める 人間はそんなもの

そして明日は私たちがゲームの主 それがすべて

 

また愛しあう また踊る

またほほ笑む もっと強く抱き合う

また涙する また苦しむ

そしてまた頑張る もっと大声で歌う

すばらしいこと

(「そして明日は?」)