えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

カンディード

かわりにフランス文学のこと。
カンディード 他五篇』
植田祐次訳 岩波文庫2005年

まだカンディードしか読んでないけど。
ひっさしぶりに読んであまりに覚えてないことに
愕然とするのはいつものことで(本当に読んだのか)、
そういうのはおいといて、実に感慨の深いこと。
こんなにも容赦なく悲惨な世界にあって
カンディードは文字通りに「無垢」な存在であった
のだなということ。ヴォルテールの冷静さは見事なものだ。

しかし、ぼくたちの庭を耕さなければなりません。(459ページ)


このあまりに有名な台詞は、しかしこれだけを抜き出せば
単純な人生道徳に堕しかねない。それがそうはならないのは、
全編を貫くとんでもなく悲惨な運命を、読者がカンディードとともに
体験してきた最後に、それが口にされるからに他ならない。
もののけ姫』の「生きろ」みたいなもんである。
ペシミスムというのは、それ自体フランス文学の伝統みたい
なもんで、別にモーパッサンだけが悲観的なわけでは全然ない
ということを確認しもするわけだけれど、「耕すべき庭がある」
と最後に言えるかどうかは、なんというか分かれ目のようなものが
そこにある。のではなかろうか。
だからヴォルテールがどうとか、という話でも別にないのだけれど。