えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

2019-01-01から1年間の記事一覧

『林檎の樹』

ゴールズワージー『林檎の樹』、法村里絵訳、新潮文庫、2018年 大学を卒業した5月、徒歩旅行に出かけたフランク・アシャーストは、足を痛めて歩けなくなり、近くの農場に泊めてもらうが、そこで出会った娘ミーガンに恋に落ちる。二人は真夜中、花咲く林檎の…

『あしながおじさん』/シャルル・アズナヴール「世界の果てに」

「ガイブン最初の1冊」を探すなかで読んだ本の記録。 ジーン・ウェブスター『あしながおじさん』、岩本正恵訳、新潮文庫、2017年 これは大学生ジェルーシャ・アボットの自立へ向けた成長の過程が、彼女の書簡によって描かれていく物語だ。ジェル―シャの姿は…

『自負と偏見』/ミレーヌ・ファルメール「モンキー・ミー」

ジェイン・オースティン『自負と偏見』、小山太一訳、新潮文庫、2014年 以前から読みたいと思っていた本を読む。初読。原作が匿名で刊行されたのは1813年。 オースティンがどれほど上手かも(冒頭のベネット夫妻の会話から、人物が鮮やかに立ち上がってくる…

『ブヴァールとペキュシェ』/ミレーヌ・ファルメール「悪魔のような私の天使」

ギュスターヴ・フローベール『ブヴァールとペキュシェ』、菅谷憲興訳、作品社、2019年 マラルメは「世界は一冊の書物に書かれるために存在している」と述べた。そのことの意味は、この世界に「意味」をあらしめるのはただ人間の言葉だけであるということだ。…

『カルメン/タマンゴ』/ミレーヌ・ファルメール「私は崩れる」

メリメ『カルメン/タマンゴ』、工藤庸子訳、光文社古典新訳文庫、2019年 『カルメン』については昔にも何か書いたことがあるなあ、と思い出して読み返すと、2010年の記事だった。 カルメン - えとるた日記 『カルメン』は自由の象徴だという読みはまあ常識…

学習のツボ/「羊飼いの娘がいました」

ご縁あって、 第27回 大人も使える「子どもの歌」(1)(中級) | 仏検のAPEF/公益財団法人フランス語教育振興協会 第28回 大人も使える「子どもの歌」(2)(中級) | 仏検のAPEF/公益財団法人フランス語教育振興協会 を書かせていただく。タイトル通り「子ど…

『ニュクスの角灯』第6巻/セルジュ・ゲンズブール「枯葉によせて」

高浜寛『ニュクスの角灯』第6巻、リイド社、2019年 この『ニュクスの角灯(ランタン)』は、明治11年1878年に始まる。舞台は長崎。骨董屋「蛮」に奉公に出た美世は、パリ万博で西洋の品を買い付けて帰国した青年、百年と出会う。美世は商売の基礎を学びなが…

BD『年上のひと』/クリストフ・マエ「秋」

バスティアン・ヴィヴェス『年上のひと』、原正人訳、リイド社、2019年 BD『ポリーナ』/ザジ「愛の前に」 - えとるた日記 にも書いたけれど、この人はとにかく絵が上手い。デッサン力が不動の安定感を保っており、省略を利かせた描写はとても洗練されている…

『アニメーション、折りにふれて』/テテ「秋がやってきたから」

ミッシェル・オスロの話の続き。 高畑勲に私がもっとも感謝していることは、ミッシェル・オスロの作品を日本へ紹介してくれたことだ。 高畑勲『アニメーション、折りにふれて』、岩波現代文庫、2019年 に収録されている「『キリクの魔女』の世界を語る」とい…

『ディリリとパリの時間旅行』

『ディリリとパリの時間旅行』、ミッシェル・オスロ監督、2018年 待望のオスロ監督の新作を映画館にて鑑賞、感無量。 時は1900年、万国博覧会の「人間動物園」に出演していた、ニューカレドニアからやってきたカナカ族の少女ディリリは、なんと故国で(当時…

『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』/バルバラ「褐色の髪の女性」

『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』、バンジャマン・レネール、ステファン・オビエ&ヴァンサン・パタール監督、2012年 これについては以前からぜひ一言記しておきたかった。 「くまのアーネストおじさん」は、ガブリエル・バンサンによる絵本の…

『シェリ』/バルバラ「ゲッティンゲン」

コレット『シェリ』、河野万里子訳、光文社古典新訳文庫、2019年 私は個人的にはコレットにも『シェリ』にもなんの関心もないのだけれど、そういう人間の言うことだからぜひ信じていただきたいと思う。 コレットは本物だ。骨の髄からの小説家だ。『シェリ』…

『ラ・フォンテーヌ寓話』/バルバラ「マリエンバード」

『ラ・フォンテーヌ寓話』、ブーテ・ド・モンヴェル絵、大澤千加訳、洋洋社、2016年 『イソップ寓話』というのなら、日本人の大半はよく知っている。昔から、子どもたちに人生の教訓をわかりやすく教えるという目的で、絵本や小学生用教科書に使われてきたか…

『千霊一霊物語』/バルバラ「我が麗しき恋物語」

アレクサンドル・デュマ『千霊一霊物語』、前山悠訳、光文社古典新訳文庫、2019年 刊行は1849年。舞台は1831年、語り手(デュマ自身)は、妻を殺したばかりだと打ち明ける男に遭遇、市長らと一緒に現場検証に出かけるが、そこでその男は、殺した妻の生首がし…

『哲学する子どもたち』/ヴァネッサ・パラディ「キエフ」

毎年、6月はバカロレアのシーズンで、今年はどんな問題が出たかとニュースになるが、その時に、ふと読みだしたら止まらずに、一気に読んでしまったのが、 中島さおり『哲学する子どもたち バカロレアの国フランスの教育事情』、河出書房新社、2016年 だった…

『ドルジェル伯の舞踏会』/ヴァネッサ・パラディ「その単純な言葉」

二十歳の貴族の青年フランソワは、ドルジェル伯爵夫妻に気に入られ、足繁く出かけて行っては二人と時間を過ごす。彼は妻のマオに恋しているが、しかし夫のアンヌのことも好きであり、嫉妬の感情などを抱いたりはしない。彼はいわば現状に満足しているのだが…

『ノートル=ダム・ド・パリ』/ミレーヌ・ファルメール「涙」

ユゴー『ノートル=ダム・ド・パリ』(上下)、辻昶・松下和則訳、岩波文庫、2016年 は、なんとも長い小説だ。1482年1月6日、「らんちき祭り」の日に、パリ裁判所で聖史劇が行われる、というところから始まるのだが、まずこの裁判所の場面(第1編)がやたら…

『フランスの歌いつがれる子ども歌』/「みどりのネズミ」

書店で偶然出会った本。 石澤小枝子、高岡厚子、竹田順子『フランスの歌いつがれる子ども歌』、大阪大学出版会、2018年 タイトル通り、フランス語の子どもの歌の、楽譜、歌詞(仏日)、それに解説をセットにして、全40曲で構成されている。ブーテ・ド・モン…

『いまこそ、希望を』/ヴィアネ「ヴェロニカ」

初めにお断りしておけば、以下はまったく門外漢の個人的感想です。 ジャン=ポール・サルトル、ベニイ・レヴィ『いまこそ、希望を』、海老坂武訳、光文社古典新訳文庫、2019年 サルトルは晩年、失明し、自身の手による執筆が不可能になった。そこで秘書を務…

『ソヴィエト旅行記』/ヴィアネ「大きらい」

こんな本まで出るとは、いったい今はいつなんだろう、という不思議な気分を抱きながら本書を手に取った。 ジッド『ソヴィエト旅行記』、國分俊宏訳、光文社古典新訳文庫、2019年 1936年、66歳になるジッドは2ヶ月かけてソヴィエトを旅行し、帰国後に『旅行記…

鹿島茂選「フランス文学の古典名作20冊」/ZAZ「小娘」

フランス文学入門者向けの作品リスト、のようなものを作りたい、としばらく前から思いつつもまだ果たせないでいる。理由はいろいろある。あくまで王道を行くなら古いところを中心にして、あっという間に20も30も書名が上がるが、それでは今時の入門向けとし…

『蘭学事始』/ZAZ「コム・シ、コム・サ」

昨日、久し振りに大阪でマラルメの読書会に参加。テオドール・ド・バンヴィルについての一文を読む。 その朝、たまたまテレビで杉田玄白の番組を見た。 杉田玄白は前野良沢らと『ターヘル・アナトミア』を翻訳しようと決意し、顔を合わせてはオランダ語の意…

『ゴッホ ――最後の3年』/ZAZ「行こう!」

これまたフランスではないけれど。 バーバラ・ストック『ゴッホ ――最後の3年』、川野夏実訳、花伝社、2018年 文字通り、ゴッホの最後の3年(1888-1890)を描いた、オランダの伝記漫画。つまりパリから南仏へ移って以降、オヴェール・スル・オワーズに至るま…

『ジーキル博士とハイド氏』/ZAZ「パリはいつもパリ」

『宝島』を読んだら、『ジーキル』に行くのはもう避けられないと言うべきか。 スティーヴンスン『ジーキル博士とハイド氏』、村上博基訳、光文社古典新訳文庫、2009年 は、なにしろ有名な作品だ。二重人格という主題は、それだけ人を惹きつけるものがあるの…

『宝島』/ZAZ「パリの空の下」

ガイブン初めの一冊にお薦めなのは何だろうか? という問いに対しては、無論、私だって好き好んで『ボヴァリー夫人』を挙げるわけではない。19世紀フランス文学限定というなら、『ゴリオ爺さん』を挙げてもいいかもしれないが、いきなり冒頭でつまずかれる危…

BD『キュロテ』/ZAZ「もしいつか私が忘れたら」

一言で言って、これは傑作。 ペネロープ・バジュー『キュロテ 世界の偉大な15人の女性たち』、関澄かおる訳、DU BOOKS、2017年 culotttéは「厚かましい、図太い」を意味する形容詞、と辞書にある。ここでは culotter の過去分詞「キュロット(半ズボン)をは…

『モンテ・クリスト伯爵』/Zaz「明日はあなたのもの」

こんなの出てるなんて知らなかったなあ、誰か教えてよー、と激しく思ったので、非力ながらここにご紹介に努め、どなたかのお役に立てればと願う。 アレクサンドル・デュマ原作、森山絵凪『モンテ・クリスト伯爵』、白泉社、Young Animal Comics、2015年 マル…

「恐怖」(1884)翻訳/Zaz「何が起きようと我が道を行く」

久方ぶりにモーパッサンの翻訳をする。 モーパッサン 「恐怖」(1884) 昨年の秋にモーパッサンの幻想小説について発表する機会があり、その余波で「さらば、神秘よ」を訳し、今回は「恐怖」(1884)を訳した。まるで15年ぶりくらいにようやく宿題を提出したよう…

BD『見えない違い』/ポム「あなたはいない」

ジュリー・ダシェ原作、マドモワゼル・カロリーヌ作画『見えない違い 私はアスペルガー』、原正人翻訳、花伝社、2018年 原作者の経験に基づく自伝的漫画。主人公のマルグリットは27歳、会社員として働き、恋人もいるが、様々な面で生きづらさを感じている。…

「対訳で楽しむモーパッサンの短編」第6回/ポム「ポーリーヌ」

『ふらんす』3月号に、「対訳で楽しむモーパッサンの短編(最終回) 「クロシェット」②」が無事に掲載されました。クロシェットとあだ名される老婆は、かつては美しい少女オルタンスでした。彼女の身に起こった事件とは……。コラムは「映画『女の一生』」です…