えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

BD 『氷河期』/ -M- 「オセアン」

フランスの漫画ことBD(ベーデーであって、ブルーレイディスクではない)が日本に積極的に紹介されるようになって、もう6、7年は経っているだろうか。これは、有能で熱意のある紹介者が何人かいれば、状況を変えることができるという見事な実例であり、その…

ナボコフ、フロベールと5、6冊の本/クロ・ペルガグ「カラスたち」

「どうしたら良き読者になれるか」、というのは「作家にたいする親切さ」といっても同じだが――なにかそういったことが、これからいろいろな作家のことをいろいろと議論する講義の副題にふさわしいものだと思う。なぜなら、いくつかのヨーロッパの傑作小説を…

『フランス文学は役に立つ!』/ZAZ「シャンゼリゼ」

鹿島茂『フランス文学は役に立つ!』、NHK出版、2016年を読む。 「役に立つか立たないか」という功利主義的な発想は、えてして短絡的で底が浅いものである。したがって、「役に立つか」というような問いを安直に立てないような人になるためにこそ、文学は有…

愛国主義という卵/ミレーヌ・ファルメール「City of Love」

目下、モーパッサンと戦争について考え直す、という論文を執筆中。そこでふと思い出したのが、モーパッサンの名言として巷に流布しているらしい言葉である。 「愛国主義という卵から戦争が孵化する」というのがそれなのだが、これまできちんと調べたことがな…

純粋自我みたいな何か/ヴァネッサ・パラディ「あなたを見るとすぐに」

1月21日(土)関西マラルメ研究会@京都大学人文科学研究所、の3階の談話室には「以文会友」の額(が外して立てかけてあった)。出典は『論語』「顔淵 第十二」の24である、と。 曾氏曰く、君子は文を以て友を会し、友を以て仁を輔く。 曾先生の教え。教養人…

BD版『セルジュ・ゲンズブール』/「唇によだれ」

フランソワ・ダンベルトン原作・アレクシ・シャベール漫画、『セルジュ・ゲンズブール バンド・デシネで読むその人生と音楽と女たち』、鈴木孝弥訳、DU BOOKS、2016年を読む。 ゲンズブールの伝記としては先にジョアン・スファール監督の Gainsbourg (Vie hé…

映画『マドモワゼル・フィフィ』/クリスチーヌ&ザ・クイーンズ「サン・クロード」

本日、映画『マドモワゼル・フィフィ』を(フランス版のDVDで)鑑賞。1944年、ロバート・ワイズ監督。シモーヌ・シモン主演。 「脂肪の塊」と「マドモワゼル・フィフィ」をくっつけて一本の作品にするという発想は、クリスチャン=ジャックの『脂肪の塊』(1…

「持参金」、あるいは結婚詐欺/クリストフ・マエ「人形のような娘」

「持参金」は1884年9月に『ジル・ブラース』に掲載。シモン・ルブリュマン氏はジャンヌ・コルディエ嬢と結婚することになる。ルブリュマン氏は公証人の事務所を譲りうけたばかりで支払いが必要だが、新婦には30万フランの持参金があった。 新婚夫婦は二人き…

「痙攣」、あるいは早すぎた埋葬/クリストフ・マエ「パリジェンヌ」

「痙攣」は1884年7月に『ゴーロワ』に掲載。舞台は温泉保養地のシャテルギヨン。モーパッサンは自ら湯治のために、この地に最近に訪れていたようである。また、新聞小説において説明抜きの語り手「私」は、容易に署名者=作家と同一視されえたから、初出時に…

「ロンドリ姉妹」、あるいは南国の女/アブダル・マリック「ダニエル・ダルク」

「解説」で触れられているように、モーパッサンには長編(新聞連載の後に単行本)と短編(新聞一回読み切り)の間に、中間の長さの作品が複数存在している。その多くは短編集編纂の際に核となる作品(そのタイトルが作品集のタイトルになる)を書き下ろした…

「散歩」、あるいは人生の空虚/テテ「君の人生のサウンドトラック」

「散歩」は1884年5月、『ジル・ブラース』に掲載された作品。 40年間、実直に会社に勤めていた男性、ルラが、ある春の宵、陽気に誘われるようにして街に出る。凱旋門の近くの店のテラス席で食事をとり、さらにブーローニュの森まで散歩することに決める。行…

なぜ傘が要るのか/テテ「歓迎されない人」

モーパッサンの短編「傘」についての補足。 この小説を今の目で読んでよく分からないのは、そもそもオレイユ氏はなぜ毎日職場へ傘を持って通勤しているのか、ということである。ここ数日雨が降っていたから、というわけではない。 雨が降っていなかったのは…

「雨傘」、あるいは吝嗇/フランス・ギャル「もちろん」

「雨傘」は1884年の作。かつて岩波文庫に杉捷夫訳で入っていたので、日本でもよく知られた短編の一つであろう。吝嗇はノルマンディー人の特徴の一つとして農民を扱った作品に見られるテーマであるが、ここではそれが、都会に住む小市民の心性として描かれて…

「ローズ」、あるいは女の欲望/「抵抗せよ」

「ローズ」(1884)は初読時には面白く読めるが、再読、三読時にはあれこれと弱さが目につく作品である。合理性や本当らしさに欠けるのは否めまい。 冒頭はカンヌの花祭りにおける花合戦の情景が描かれているが、プレイヤッド版の注釈によれば、1884年には1…