えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

2016-01-01から1年間の記事一覧

「マドモワゼル・フィフィ」、あるいは男女の闘争/Kyo「聖杯」

「マドモワゼル・フィフィ」は1882年の作で、「脂肪の塊」に次いで、娼婦と戦争とを結び付けた作品。1884年に書かれる「寝台29号」と合わせて、戦時下における娼婦を主題とした三部作と呼んでもいいかもしれない。モーパッサンは早くから男女の関係を闘争、…

「冷たいココ」、あるいは不条理な宿命/フー!チャタートン「ボーイング」

昨日はうっかり「冷たいココはいかが!」を飛ばしてしまった。 1878年発表のこの作品は、これも習作の色が濃いのであるが、さて、この話はいったい何なのだろうか。 語り手のおじのオリヴィエは生涯の節目となる出来事の起こる時に、必ず道を行くココ売り(…

「脂肪の塊」、あるいは自己欺瞞/ギエドレ「立ちション」

「脂肪の塊」についてはこれまでに何度か書いたり話したりする機会があったので、言いたいことはだいたい言ったという思いがあるのだけれど、それでもせっかくなので一言記してみたい。 モーパッサンの文学にとってキー・ワードの一つは hypocrisie であり、…

『脂肪の塊/ロンドリ姉妹』について/ザジ「ペトロリアム」

勢いのついているうちに、これについて一言記しておきたい。そもそも、記すのは義務と思えば、気軽に取りかかれずに手が遠のいてしまったのであった。 モーパッサン『脂肪の塊/ロンドリ姉妹 モーパッサン傑作選』、太田浩一訳、光文社古典新訳文庫、2016年9…

楽しむ秘訣(『パスカル『パンセ』を楽しむ』)/ディオニゾス「ジャックと時計じかけの心臓」

山上浩嗣『パスカル『パンセ』を楽しむ 名句案内40章』、講談社学術文庫、2016年を読む。 17世紀の思想家パスカルは、なにしろ言うことが厳しく、その調子はさながら人間性を丸ごと断罪するかの如くのものだから、これに挑もうとする読者の側はついつい、膝…

彼は部屋を出て、そして階段に消える途中/ミレーヌ・ファルメール「影で」

12月17日(土)、関西マラルメ研究会@京都大学。『イジチュール』草稿。" Il quitte la chambre et se perd dans les escaliers, (au lieu de descendre à cheval sur la rampe)" 途中まで。 初期マラルメの文章は後期のような構文的ねじれはさほど見られな…

フランス人であるということ/イェール「すっかり夢中」

先日、『最高の花婿』原題Qu'est-ce qu'on a fait au bon Dieu ? (2014)を鑑賞。フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督。『招かれざる客』以来、すでに伝統ある異人種婿・嫁物語の定石どおりの物語であり、目新しいのは4人も詰め込んだところ(だけ)と言える…

燃やしてはいけないもの/ヴァネッサ・パラディ「空と感情」

『ハリー・クバート事件』を読んでいたら、はじめの方にこんな場面が出てくる。殺人事件の容疑者として疑われた師匠たる大作家に、手書き原稿などの品を燃やしてくれと、物語の語り手が頼まれるのである。 原稿は大きな炎となって燃え上がり、ページがめくれ…

『繻子の靴 四日間のスペイン芝居』私的感想

拝啓 不知火検校さま 先日(12月11日(日))、京都芸術劇場春秋座で観劇したポール・クローデル作『繻子の靴 四日間のスペイン芝居』(翻訳・構成・演出:渡邊守章)について、詳しく感想を述べよとのご指示を頂戴いたしました。その勤めを果たすべく、ここ…

『女の一生』(2016)フランスで公開

当「えとるた日記」は http://etretat1850.hatenablog.jp に正式に移行いたしました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 ところで、ステファヌ・ブリゼStéphane Brizé 監督の映画『女の一生』Une vie が23日にフランスで封切られた。 主演は舞台女優…

移行テスト中につき/クリスチーヌ&ザ・クイーンズ「クリスチーヌ」

はてなダイアリーからはてなブログに移行するとどうなるのかを実験中につき、いろいろ試してみております。とは言え、何を書いたものか。 本日視聴した動画。クリスチーヌ&ザ・クイーンズは2014年の一番の驚きだったといってよいでしょう。この緊張感と凛々…

『あらゆる文士は娼婦である』

石橋正孝・倉方健作『あらゆる文士は娼婦である 19世紀フランスの出版人と作家たち』、白水社、2016年を読む。 芸術作品はそれが流通する媒体と切っても切れない関係にある。19世紀フランス社会においてはペンで身を立てることが可能となり、作家が職業とし…

モーパッサン批評文『繊細さ』翻訳

別件で訳文が必要となるが、該当する評論文をまだ訳していなかった自分に腹を立て、一気呵成に翻訳を仕上げる。学祭(のお蔭の休日)に感謝。 モーパッサン 『繊細さ』 なお参照したかったのは次の箇所。 Quand un homme, quelque doué qu'il soit, ne se pr…

愛の根の深さ

学会の行き帰りにピエール・ルメートルの『傷だらけのカミーユ』を読む。いやはや暗いにもほどがあるのではないか、ピエール・ルメートル。ヴェルーヴェンが可哀相すぎる。思えば『その女アレックス』には、最後のところでヒロインに対するぎりぎりの同情の…

モーパッサンの未発表作?「天職」について

出版社Hermannが、創立140周年を記念する書籍を電子出版で刊行するにあたり、同社が保有していた手稿のコピーの画像、およびその転写と、それについての調査報告を掲載した、という話をメールマガジン"Maupassantiana"で知る。 Déborah Boltz, « Récit d'enq…

『ゴリオ爺さん』覚え書き

「それじゃあ」と、ウージェーヌは、うんざりしたといった顔つきで言った、「あなたたちのパリってのは泥沼じゃないですか」 「しかもへんてこな泥沼でね」と、ヴォートランは言葉をついだ。「馬車に乗ってその泥にまみれる連中は紳士で、徒歩でその泥にまみ…

モーパッサン「ディエップの浜辺」

モーパッサン 『ディエップの浜辺』 宿題の残り半分、モーパッサンのこれこそ新発見のテクスト、「ディエップの浜辺」の翻訳を掲載しました。 ご一読頂けましたら嬉しいです。 「豚の市場」の受けが良かったのか、雑誌の編集者からもう一本書いてみるように…

モーパッサン「豚の市場」

まる5ケ月を経て、誓いの半分を実現にこぎつけ、モーパッサンの新発見のテクスト1編を翻訳しました。 モーパッサン 『豚の市場』 ご一読いただけましたら幸いです。 青年モーパッサンによる豚の擁護と顕彰。そして「聖アントワーヌと豚はいかにして結びつく…

モーパッサン「戦争」(1881年版)

9ケ月ぶりにして本年最初の翻訳を掲載いたします。 モーパッサン 『戦争』 1881年4月10日に『ゴーロワ』に掲載されたほうの「戦争」と題する記事。 83年12月11日『ジル・ブラース』に掲載されたほうは早くから知られていたが、81年のこちらの方は同題で重複…

モーパッサンの2作品、発見のニュース

ブログLa Porte ouverte の1月28日の記事 DEUX TEXTES RETROUVÉS DE MAUPASSANT : LE MARCHÉ AUX COCHONS, LA PLAGE DE DIEPPE | la porte ouverte に、筆者の Monsieur N が、モーパッサンの知られてないテクスト2編を発見したと報告されている、ということ…