えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

2叢書比較

さて、ひとまず「食後叢書」こと After-Dinner Series の全作品名が分かった。
で、大西忠雄によればダン(スタン)と「食後叢書」中には
「それぞれ同じ偽作が同数ずつ含まれているのも一興」(全集3巻)ということである。
なので、
ダン(スタン)は「食後叢書」から偽作を全部そのままパクってきた」
とひとまず仮説を立てよう。その上で「食後叢書」の中に、スティーグミュラー
および大西氏挙げるところと同じタイトルの作品を数え上げる。
すると、(冠詞の異同を無視しても)61編しか見つからないのである。
こりゃどうなってんだ。
そこで「食後叢書」の目次をさらに眺めた上で、これはちょっと怪しいんでないの
という作品を探すと、
5巻、Crash, Stable perfume, An exotic prince
6巻、Kind girls, Caught in the very act
がだいぶ胡散臭い。
11巻にも、Mother and daughter, The lively freind
というのがあるのだけれど、いろいろ考えると、11、12巻の翻訳は
ハンニガンという人なので、この人は無罪ではないかとも考えられる。
そうすると、5巻6巻の上記5作が、
ダンの版でいうところの
In various rôles, Virtue, In Flagrante Delictu, On Perfumes, Lost
と一致するのではなかろうか。
厳密には両叢書本文を確認しなければならないところである。


とまで記したところで、なんのことはない牧さんも既に同じことをなさっているのが
註12に記されているではないか。とほほ。
しかも牧さんは12巻中、An uncomfortable bed は偽作だとされている。
うーむ。
牧さんは6巻の贋作数を10としていて私の意見と食い違うが、この辺は要再検討な感じである。


とまれ、上記仮説は一応正しいと考えてよいようである。
そこでまあ、ここに声高々に、
偽作の犯人は R. Whittling, M. A., Oxonなる人物である。
と断言することにしよう。
そいでもってダンなる人物は、既に出ている作品集をごっそり集めてもって
「最初の英訳全集」だと銘打って出版した、山師みたいな者だったということである。
翻訳者名を載せていないとは、もしかすると翻訳をしていない
可能性も否定できず、長編・旅行記も含めて、それ以前に出ていた英訳版の調査が必要なところだ。


話戻って「食後叢書」だが、全186作品中66編(推定)が偽作ということは、
全体の三分の一がぱちもんというものすごい代物である。
とくに笑えるのが、4巻19作品中16、5巻21作品中19(推定)がぱちもんであることで、
これはもはやモーパッサン作品集とは呼びがたい。それはともかく、
「オッド・ナンバー」13作品についで日本に入ってきたのがこの叢書で、
田山花袋はこの12巻(全部読んだかどうかは難しい問題らしいが)でもって
モーパッサンに開眼した、ということは今では一種伝説のようになっているのである。
おまけにその後のダンスタンの版もが偽作を全部踏襲してしまった。
289分の66でも、「五分の一以上ぱちもん」だから、多少密度が薄まっただけのことだ。
明治から大正にかけての日本人のモーパッサン受容は常に、この「かなりぱちもん」
状態のままにあった。
ということを、今日我々はどのように考えるべきであろうか。
ホワイトリングだかウィットリングだか知らないけれど、
あんた、ちょっとは反省せんかい、
と、私は言いたい。