えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

偽作の出所(2)ジャン・リシュパン

とはいえ、発見はまだ他にもある。
まず、メズロワの続きとしては、
Le Mal d'aimer, Éd. Rouveyre & G. Blond, 1882.
の冒頭作品、
Les cierges de Margot
というのが、ダンスタンでいうと3巻の、
Margot’s Tapers
の元であった。残り11作は今のところ該当しないように思えるので、この作品集から取ってきたか
どうかは曖昧ではある。
メズロワは探せばまだ引っかかりそうな予感はあるけれど、今のところはこれだけ。


さて加えて。
ここに書かせて頂いちゃいますが、Kさんのご発見によってジャン・リシュパン (Jean Richepin, 1849-1926)
の存在が浮かびあがってきたのである。まず、
Contes sans morale, Flammarion, 1922.
の中に、
L’Homme aux yeux pâles
という作品があり、これが
The Man with the Blue Eyes (ダンスタン4巻)
の元だというのが、Kさんのご発見。感謝感謝。
(「食後叢書」7巻だと The man with the pink eyes である。青かピンクかどっちやねん。てかピンクの目?)
けれどこの『道徳のないコント集』の出版年は遅すぎるので、これ以前に既出のものと思われる。
他29編の作品も該当しないようだ。


で、こうなればリシュパンも当たりである。なおこの詩人に関しては、
Jean Richepin - Accueil
というマニアなサイトがあってなかなか便利。
若い頃むちゃした後文学の世界に入り、『乞食の歌』La Chanson des gueux, 1876
『愛撫』Les Caresses, 1877なんて挑発的な詩で名を上げ、後には
サラ・ベルナールあて書きで劇を書いて自分も主演してサラの愛人になったりしてるツワモノである。
はともかくとして、またもガリカへゴー。
そして見つかったのがこれである。
Truandailles, Charpentier, 1891.
また目次を見ると、

1. La casquette
2. Romanitchels
3. Artiste (The Artiste, t. 1)
4. Un monstre
5. La vengeance de Polyte
6. Mimile
7. Laid (Ugly, t.1)
8. Le cul-de-jatte
9. Bonnes filles
10. L'opinion de Julot (Julot's Opinion, t. 5)
11. Gentleman
12. Le modèle
13. Ch'tiote
14. Cht'heumme-aux-quiens
15. Le patarin
16. Pouillards
17. Haine
18. Tripes
19. La dette (The Debt, t. 1)
20. Le marquis (The Marquis, t. 4)

3,7,10,19,20 が偽作の正体である、ととりあえず判明。「食後叢書」だと4巻と7巻。
そうです、芥川龍之介モーパッサンのものとして名を挙げた「ラルティスト」なる作品は、
リシュパンさんの作品だったのです。おお。そうだったのか。
ついでに先日ご対面した「負債」のおおもとも発見。Fanny なる「仏語題」に騙されてはいけないのだ。
ちなみに作品集の題はこれも「乞食の群れ」とでもなるもの。そんなんばっかだねこの人は。俗語好きでもある。


以上、ここまででメズロワ10編、リシュパン6編で計16編、全66編の偽作の内、それだけ正体が判明したことになる。
ところでリシュパンには1892年に出た
Cauchemars 『悪夢』という作品集があり、
私の勘としてはこれが相当に胡散臭いのだけれど、これが古本屋にも出てない稀少本ぽい。悔しい。
それにしても他は一体誰なのだろうか。シルヴェストルとかシャンソールとか、ちらっと見てみても該当しなさそう。
ま、1880年代に活躍して短編集を出した人間なんて、当たり前だが20や30は下らない。
リシュパンとメズロワなんて、今じゃ誰も知らないけど当時としては有名な方だった。山のように本を
出してることからもそれは分かるのである。道は長い。というかゴールはあるんだろうか。
という訳でたぶん一段落。いつまでも逃避しているわけにもいかないのだ。