えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

『エマは星の夢を見る』/ジュリエット・アルマネ「アレクサンドル」

『エマは星の夢を見る』表紙

 これはBDではなく漫画だけれど。

 Emmanuelle Maisonneuve / Julia Pavlowitch 原作、高浜寛『エマは星の夢を見る』、講談社、モーニングKC、2017年

 エマニュエル・メゾンヌーヴさんは、あのミシュランガイドの調査員を務めていて、本作は彼女の実体験を基にした物語である。作中の主人公もエマことエマニュエルで、彼女がミシュランに勤めることになってから、研修を経て一人前の調査員になるまでが描かれている。

 実体験を踏まえているだけにさすがにそのディテールの詳しさは見事なもので、こんなに打ち明けてしまっていいのかしらというぐらいに、ミシュラン調査員の仕事はこのようなものかと納得させられるのだけれど、その仕事は実際のところ相当にハードで、年中出張で家庭を持つことは大変で、女性には難しい仕事ですよとエマは再三警告を受けるほどである(本当にフランスの話ですかと目を疑ってしまう)。調査の日には一日に何軒も回らねばならずかなり忙しいようであるし、加えて審査されるレストラン側の実情が分かってくるにつれ、一方的に「格付け」することの責任の重さをエマは痛感することになる。

 それでも初めての審査会をどうにか乗り切るところまでが描かれているのだけれど、その過程でエマは自分の仕事の意味をより深く理解し、また自分自身の生き方についての自覚も新たにするに至る。その意味で、この作品は「仕事の中で成長を遂げる」というこの種の物語の王道をしっかり踏まえていると言え、読後感はいたって爽やかなものだ。結論としては、私には逆立ちしても務まらないお仕事であるし、正直さほどうらやましいとも思わないけれど、それはそれ。有名なミシュランガイドの内幕が知れるのは、なかなか興味深いことでありました。

 

 ジュリエット・アルマネ Juliette Armanet の「アレクサンドル」"Alexandre"。美しいピアノの弾き語りです。

www.youtube.com

T’es mon blasphème

Ma plus belle insomnie

Mais te dire je t’aime

Je sais, m’est interdit

 

T’as beau être odieux

Tu es mon Dieu

("Alexandre")

 

あなたは私の冒涜の言葉

私の一番美しい不眠症

でもあなたに愛してると言うのは

知っているの、私には禁じられていると

 

あなたは醜くても無駄よ

あなたは私の神だから

(「アレクサンドル」)