えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

BD『見えない違い』/ポム「あなたはいない」

『見えない違い 私はアスペルガー』

 ジュリー・ダシェ原作、マドモワゼル・カロリーヌ作画『見えない違い 私はアスペルガー』、原正人翻訳、花伝社、2018年

 原作者の経験に基づく自伝的漫画。主人公のマルグリットは27歳、会社員として働き、恋人もいるが、様々な面で生きづらさを感じている。彼女はその理由を探し、やがて自分がアスペルガー症候群であることを認識するに至る。そのことによって、「"当たり前じゃない"のが当たり前」(123頁)と捉えられるようになることが、マルグリットをそれまでの苦しみからの解放へ導くのである。「"おかしい"んじゃなくて"違う"のよ」(128頁)と言えるようになることで、彼女はあるがままの自己を肯定できるようになる。その後、彼女は恋人と別れはするが、自分のことを理解してくれる人たちと共に、新しい人生を築いてゆく。

 本書は、原作者の実体験を基にしながらも、アスペルガー当事者たちが社会で経験する様々な事柄や、周囲の誤解と偏見を、マルグリットという人物像を一つの典型として描くことによって、「見えない違い」のありようを具体的かつ説得的に描いてみせてくれている。もちろん実際にはケース・バイ・ケースで個人差もあるのだろうけれど、アスペルガー症候群についての一般的理解を広めるという目的に適っており、とても有意義な作品であると感じる。とくにフランスでは理解が遅れている(精神分析が普及しているためというのに驚かされる。何事にも功罪はあるということか)といわれるアスペルガー症候群についての知識を広める上で、漫画という親しみやすい表現が選ばれているのは、とても効果的であるように思える。

 診断がおりることによって、マルグリットは自分自身と「仲直り」することができる。もちろん、その受け止め方にしても個人差はあり、作中には自分が「死刑囚になった気がした」(125頁)と打ち明ける男性も描かれている。だが、それでもやはり、自分が他者とは「違う」ということを事実として認識することが、自己を肯定するための重要な契機となるのは確かではないかと思う。その意味で、本書は「言葉」の持つ重要さについても教えてくれるものであるだろう。

 

 Pomme ポムの "Sans toi"「あなたはいない」。発表は2016年。

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Et la nuit tombée, pour ne plus jamais pleurer

Je chasse deux trois paires de bras

Pour m'y réfugier, seulement le temps d'un baiser

Pour ne plus jamais me voir

Sans toi, sans toi , sans toi

("Sans toi")

 

日が暮れると、もう二度と泣かないために

私は二、三組の両腕を追い求める

ただキスの間だけでも、そこに逃げ込むために

もう決して自分の姿を見ないために

あなたはいない、あなたはいない、あなたはいない

(「あなたはいない」)