えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

猫とともに去りぬ

ジャンニ・ロダーリ『猫とともに去りぬ』関口英子 訳、光文社古典新訳文庫、2006年
家族に相手にされない隠居老人が、「猫といっしょに暮らすんだ」と家を出ると、
ほんとに猫になってしまい(まで2ページ)、おやおやと思う間もなく、同じく家出
した猫先生の天文学のお話に集まった猫達は、「ネコ星」が存在しないことに怒って、
抗議デモに突入するのである(ここまでで7ページ)。
スピードと展開の切れの良さと予測不能ぶりが見事で大笑いのうちにぐいぐい引き込まれて
いやもう、実に見事なものだ。
急いで眠ったために過去に戻ってしまう「チヴェタヴェッキアの郵便配達人」とか、
ヴェネツィアが水没すると聞いて思い切って魚なになってしまう、
ヴェネツィアを救え あるいは魚になるのがいちばんだ」とか、
文字通りバイクに恋する「恋するバイカー」とか、
ガン・マンならぬピアノ・マンの「ピアノ・ビルと消えたかかし」とか秀作揃い。
イタリアを代表する児童文学作家というロダーリを初めて知る。これは収穫。
「箱入りの世界」というのもなんだかこわくて凄いぞ。
児童文学というのは「子供のための」文学ではなくて、
「子供にも読める」文学であるべきでないかと思う。そうでない児童文学はいつもつまらない。
現代社会への痛烈なアイロニーを織り込んだ」という裏表紙の文句は「大人」の読者を惹きつけるための
ものだろうし、それが間違っているとはいわないけれど、別にそういうことを考えなくてもいいんじゃない
のと私は思う。ここには自由な想像力がある。そして悪意のない笑いがある。
それが生きていく上で本当に必要なものだということを、作者は誰よりもよく知っていたのだと思う。