えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

水の上オランドルフ版

モーパッサン『水の上』オランドルフ版

勢いで買ってしまった本第一弾が届く。
Guy de Maupassant, Sur l'eau, "OEuvres complètes illustrées", illustrations de Lanos, gravure sur bois de G. Lemoine, Ollendorff, 1904.
昔の人が翻訳に使ったのはオランドルフかアルバン・ミシェルかコナール版で、
アルバン・ミシェルはオランドルフの中身をそのまま使っているのでこれもイラスト入り、
前者二つは二十世紀前半の普及版としてよく出たものなので、今でも入手は難しくない。
挿絵の分だけ割高ではある。
コナール版は、プレイヤッドが出るまでは必須不可欠版だったもの。あれこれ
エディション・クリティックがそろった現在となっては、まあ不可欠ということはなかろう。
挿絵もない地味な版ではあるが、いろいろ補遺がついてるところは面白い。
さて、rousseurは辞書にも「(湿気による古紙の)赤茶色の染み」とあって、この本はこれが
けっこうきついので、その分割安だったのでしょう。装丁も並みどころで、
いくらかと申せば、29.8ユーロ。勢いというほどのものでもないか。
大変「写実」的な挿絵がたくさんあって、眺めているだけで楽しい、
て眺めるだけしかしないのだけれども。
19世紀の挿絵文化は何だったのか、というのはテーマとしては楽しいが、
手間もお金もかかるので、なまなかには手が出ない。
マラルメのように画家とのコラボレーションが多かった作家のいる一方、
バルザックのように、載せる以上は注文の多い人もいて、
フロベールは頑として挿絵を嫌ったはずだけど、
モーパッサンは意外とその点が緩いみたいで、
これは考えると不思議な話である。
言葉にイメージを喚起するという役割を担わせるのであれば、挿絵というのは原理的に
邪魔者でしかないが、しかし多くの読者は挿絵のある本を好んだので、挿絵入り豪華版
というのは次から次にと出るは出る。儲けがよかったのだろう。今でも古書値がはるのは
まず挿絵入り、色つきなら尚更ということになる。
マラルメはともかくとして、レアリスム文学は恐らくその本質からして視覚的なものであり、
その意味で絵も写真も常にライヴァル関係にあった、と言えるとは思うが、
しかしまあ「実際」というのは、そんなに簡単に割り切れるものではない。