えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

苦い思い出と感謝の記

モーパッサンのビブリオグラフィー

日・月に新潟へ。
火・水はあっちのお仕事と、
あっちのお仕事に関係するのだと、理屈をつけて頼まれもせぬお絵描き。


ところで、2007年11月12日の記述のところに、
大西忠雄せんせいのお孫さんからコメントをいただく。
なんとまあ、お恥ずかしいことでありました。
大西せんせいは天理大の先生だった(推定)ということしか存じませんが、


大西忠雄、「明治期モーパッサン輸入資料」1‐6、『日本比較文学会会報』、4-9、1956‐57年
―「明治期モーパッサン紹介文献追加」、『日本比較文学会会報』、11、1958年、p. 6.
―「モーパッサン偽作一覧表」、『日本比較文学会会報』、12、1958年、p. 3-5.
―「大正期モーパッサン紹介書誌」1-3、『日本比較文学会会報』、21-23、1958年
(『比較文学会会報』は1-100号までをまとめたものが刊行されている。)


で私はたいへんにお世話になったのであります。
これがなければ、いや本当に私は手も足も出なかったことがたくさんあって、
貴重なお仕事をなされた方なのです。


さて、お世話になった一つはモーパッサンの偽作話であり、もう一つがこちら。
Guy de Maupassant, sous la direction de Noëlle Benhamou, Yvan Leclerc, Emannuel Vincent, Memini, coll. "Bibliographie des écrivains français", 2 vol., 2008.
2008年となってるけど、出たのは去年のはず。
これがなにかというと、モーパッサンの文献書誌を、国際的に網羅した
2巻本のものすんごい本で、今からモーパッサン研究するならこれがあれば
超楽ちん(あるいは余計に超大変というべきか)という代物で、
「翻訳」の項で挙がってるのは57の言語にもなり、
世界中に散らばった自筆原稿から、当時の書評、現代の研究論文まで
全部網羅した(はず)の、いやはや、ものすごーいお仕事なのである。
250ユーロもしますけど。


いやすげーなあ、と言ってるだけならもっと早く紹介していたのだけれど、
そうは問屋がおろさなくて、
これの日本語セクションを作成したのは、とある先生の名前が挙がっているのであるけれど、
その下っ端で実質的に仕事をしたのが、僭越ながら私なのですな、これが。
今は昔の6年前のことだった。
でまあ、詳しくは書きませんがその仕事に関しては苦い思い出が山ほどあり、
正直に申し上げて、満足いく仕事ができていないという思いがあるので、
開いて見るのが怖いのね。言い訳はできませんけども。


で、話は戻って、上記の大西せんせいのお仕事は、
当時、モーパッサンの明治期の翻訳についての一番まとまったお仕事だったので、
これがあったおかげでもって、
「従卒」("L'Ordonnance")、戸川秋骨訳、『讀賣新聞』、1898年6月13日
なんてものまで、このビブリオには載ることになったのであった。ははは。
ちなみに、その出だしはこんなのだったりする。

幕場は将校に充されて、宛かも華々しき野営の光景を呈せり。軍帽、赤きずぼん、組紐、金扣紐、帯釼、参謀将校の肩章、歩兵及び騎兵の徴章は、鉄或は大理石或は木もて造られたる、白き黒き十字架の悲しき柄と、死したる人の上に延ばしたる幾多の石碑の間を過ぎ行けり。

というわけでありまして、以前に『モーパッサン全集』3巻の解説は大したものだ、
と記したこともありましたが、
改めまして、大西忠雄せんせいに感謝の意を表したいと思うのでありました。
人と人とはどこでどう繋がるか分からないものですね。奇しき縁かな。