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えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

描いたようなマルスリーヌ

フランス文学

Marceline Desbordes-Valmore

今日は宿題をお休みし、
趣向を変えてマルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール
絵に描いたような、て元が絵なので当然ですが。
ジョルジュ・ポンピドゥーのアンソロジー詩集には、
彼女の作が2篇載っていて、一個はもちろん「サアディの薔薇」。
他方は « Qu'en avez-vous fait ? » と題された作で、
初出はElégies et Poésies nouvelles, 1825 であるらしい。
これを訳してみる。

あなたはそれをどうなさったの?
マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール
Marceline Desbordes-Valmore, « Qu'en avez-vous fait ? »


あなたは私の心を所有し、
私は、あなたの心を持っていた。
心に心を、
幸福に幸福を!


あなたの心は返され
私はもう他の心を持たない。
あなたの心は返され、
私の心は失われた!


葉に花
そして果実そのもの
葉に花
香り、そして色。


あなたはそれをどうなさったの、
私の至高の主であるお方?
あなたはそれをどうなさったの、
あの甘い優しさを?


哀れな子供が
母と別れた時のように、
哀れな子供を、
何物も守ってくれぬように、


あなたは私を置き去りにする
苦い私の人生の中へと
あなたは私を置き去りにする
そして神はそれをご覧になる!


ご存知なの、いつか
人はこの世にただ一人となることを?
ご存知なの、いつか
愛を再び見出すのだと?


あなたはお呼びになるでしょう
でも誰も答えてはくれない。
あなたはお呼びになるでしょう
そして夢をご覧になる!・・・


夢見ながら、あなたは戻って来て、
我が家の扉の呼び鈴を鳴らす。
昔と変わらぬ友人として
夢見ながら、あなたは戻って来る。


その時、あなたは知らされるでしょう
「誰もいません!・・・彼女は死にました」
あなたは知らされるでしょう。
でも、誰があなたを嘆いてくれるのでしょう?

5音節、4行1詩節で、1行目と3行目が基本的に繰り返しなので、
これはほとんど歌と言っていい。節つけて歌ったのではなかろうかと思う。
一見したところ簡単明瞭で、女心の率直な表明と言いたくもなるが、
果たしてそれはどうなのか。
控え目で慎ましやかに待つ女。優しさと哀しみと忍ぶ心がこの語り手の女性を特徴づけるとすれば、
それはいかにも保守的な女性像であり、一個の型にぴったりとはまっている。
恋人であり、妻であり、母である女性の感情をマルスリーヌは歌い続けるが、
そのことによって彼女は、ブルジョア社会が女性に要求する役割を演じ続けていると
言えなくもない。
その限りにおいて男性社会は彼女を受け入れた。
サント=ブーヴ、ボードレールヴェルレーヌ
マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール
「女性詩人であること」ではなく、「女性詩人でしかないこと」を自ら引き受けた女。
私には、彼女の姿がそのように映らないではない。
もっとも、それだけのことで、彼女の詩のいくつかが今も読まれるわけではもちろんない。
ところで、マルスリーヌに関して日本語で書かれたものに次のものがある。
金子美都子、「マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール夫人」、沓掛良彦編、『詩女神の娘たち 女性詩人、十七人の肖像』、未知谷、2000年、130-146頁
ここに出てくる17人の中で、フランス語で書いたのは4人。マルスリーヌの他は、
ディア伯爵夫人(12世紀)、ルイーズ・ラベ(16世紀)、ルネ・ヴィヴィアン(もっとも彼女はイギリス人ではある)。
Pauline Mary Tarn, dite Renée Vivien (1877-1909) が入っているところが感動的だけれども、
彼女を入れなければしょうがない、という実状のほうにこそむしろ愕然たる思いがする。
マルスリーヌのことを考えると、いつもこの辺りで躓いて先に進まない。
なんとかならないものであろうか。