えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

学習のツボ/「羊飼いの娘がいました」

「羊飼いの娘がいました」挿絵

 ご縁あって、

第27回 大人も使える「子どもの歌」(1)(中級) | 仏検のAPEF/公益財団法人フランス語教育振興協会

第28回 大人も使える「子どもの歌」(2)(中級) | 仏検のAPEF/公益財団法人フランス語教育振興協会

を書かせていただく。タイトル通り「子どもの歌」は大人の外国語学習にも有効ですよという内容の記事。少しでも誰かのお役に立てば嬉しいです。

(上の絵はそこでも紹介した Chansons de France pour les petits Français 『小さなフランス人のためのフランスの歌』より。Source Gallica.bnf.fr / BnF

 ところで、その原稿の最後に、「一見無害な「子どもの歌」の背後に、大人の世界が透けて見えることもあるでしょう」と記した。

 実際、そういう話はいろいろあるわけで、たとえば「澄んだ泉へ」"A la claire fontaine" の「バラの花束」(あるいは「バラのつぼみ」)とは何の象徴か、とか、「月明かりの下で」"Au clair de la lune" の3・4番の歌詞はなんだか怪しい、とかはとても有名なものである。

 あるいはまた、一見無害どころか、そもそもどう見てもひどいのではないかと思われる歌もある。「羊飼いの娘がいました」"Il était une bergère" などはその筆頭に挙がるだろう。

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 はなはだ無粋ではあるが、繰り返しを省略して、意味だけを訳出するとこうなる。

Il était une bergère
Qui gardait ses moutons
Elle fit un fromage
Du lait de ses moutons
Le chat qui la regarde
D'un petit air fripon
Si tu y mets la patte
Tu auras du bâton
Il n'y mit pas la patte
Il y mit le menton
La bergère en colère
Tua son p'tit chaton
Elle fut à confesse
Pour demander pardon
Mon père je m'accuse
D'avoir tué mon chaton
Ma fille pour pénitence
Nous nous embrasserons
La peine étant si douce
Nous recommencerons

(Il était une bergère)

 

羊飼いの娘がいました

羊を見張っていました

彼女はチーズを作りました

羊のミルクで作りました

あんたが脚を出したら

杖でぶったたくからね

彼女を見ていた猫は

いたずらっ子な様子で

脚は出さなかったけど

顎を出しました

羊飼いの娘は怒って

子猫を殺しました

彼女は神父のところへ行き

許しを乞い願いました

神父さま、罪を認めます

子猫を殺してしまいました

わが娘よ、改悛のために

キスしあいましょう

改悛っていいものね

もう一度繰り返しましょう

(「羊飼いの娘がいました」)

  ずいぶん無茶苦茶な歌詞だ。猫を殺しちゃうのもひどいが、最後の落ちにもけっこう驚かされる。子どもの世界はフリーダムだということなのか。

 動画に付されたコメントを見ると、フランス人の大人も怒ったりしているのである。

 ところが、話はそれだけで終わらない。そこでもちゃんとコメントしている人がいるけれども、フランス語の辞書を引くと "laisser aller le chat au fromage"「猫をチーズの方へ行かせる」という表現は、古くは「(女が男に)体を許す」という意味だったと書いてあるではありませんか。

 なるほど、ふむふむ。すると一体何がどうなるのだろうか?

 というような話は、さすがあちらに記すのもはばかられたので、ここにこっそり(なのかしら)記してみた次第です。