えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

綱渡りのドロテ

モーリス・ルブラン、『綱渡りのドロテ』、三好郁朗訳、創元推理文庫、1986年
Dorothée danseuse de corde は1923年発表の由。
「訳者あとがき」にも述べられているように、リュパンものとの関連が色濃い作品で、
この度初めて訪れてその見事なお仕事ぶりにびっくり仰天した
怪盗ルパンの館
では「準ルパン」ものとされているのもいかにももっともであろう。
すこぶる単純化して身も蓋もなく要約すると、
伝説の財宝を求めて極悪人と果てしなく決闘する物語であって、
ルブランがリュパン・シリーズで確立した話型といってよいだろう。廃墟趣味もおなじみだ。
新聞連載特有の山場の盛り上げ方もお手のものといった感があり、
要するには面白いからくいくい読みました、という話ではある。
興味を惹かれた箇所を二つほど引用。

 子供のころの彼女はいつも幸せだった。拘束も困難も規律も、およそ自由な本性を妨げ、ゆがめるようなものは、なにひとつ課せられたことがない。向学心に燃えていたが、教えてくれる人の知識から、自分が学びたいと思うことだけ学びとるようにしていた。アルゴンヌの司祭さんからラテン語を学びながら、教義問答を学ばなかったのもそれだ。小学校の先生から、彼が貸してくれた書物から、実に多くのことを学んだ。ただし、さらに多くを、両親が自分を預けた農家の老夫婦から学んだのである。
(107-108頁)

とりあえず、さすが世俗主義の時代だな、と。

 こうして、今回もまたドロテは、理性の教えるところに逆らってまでも、やがて起こることについての強い予感に導かれるのだった。彼女の理性は、ものごとを論理的な順序と厳密な方法に従って整理しようとする。ところが、その彼女の目には、まだはじまったばかりのことがすでに成就の姿で見えている。彼女には、他人を動かしている動機がはっきりとわかる。すべては直観としか言いようがないのだが、彼女の明敏な知性が、そうした直観をたちまち現実の状況へ結びつけるのであった。(148頁)

「直観と知性」はまさしくリュパンの売り文句であって、ここにも
怪盗紳士と綱渡りの踊り子との共通点は明確であろう。