えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

燃やしてはいけないもの/ヴァネッサ・パラディ「空と感情」

『ハリー・クバート事件』を読んでいたら、はじめの方にこんな場面が出てくる。殺人事件の容疑者として疑われた師匠たる大作家に、手書き原稿などの品を燃やしてくれと、物語の語り手が頼まれるのである。 原稿は大きな炎となって燃え上がり、ページがめくれ…

『繻子の靴 四日間のスペイン芝居』私的感想

拝啓 不知火検校さま 先日(12月11日(日))、京都芸術劇場春秋座で観劇したポール・クローデル作『繻子の靴 四日間のスペイン芝居』(翻訳・構成・演出:渡邊守章)について、詳しく感想を述べよとのご指示を頂戴いたしました。その勤めを果たすべく、ここ…

『女の一生』(2016)フランスで公開

当「えとるた日記」は http://etretat1850.hatenablog.jp に正式に移行いたしました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 ところで、ステファヌ・ブリゼStéphane Brizé 監督の映画『女の一生』Une vie が23日にフランスで封切られた。 主演は舞台女優…

移行テスト中につき/クリスチーヌ&ザ・クイーンズ「クリスチーヌ」

はてなダイアリーからはてなブログに移行するとどうなるのかを実験中につき、いろいろ試してみております。とは言え、何を書いたものか。 本日視聴した動画。クリスチーヌ&ザ・クイーンズは2014年の一番の驚きだったといってよいでしょう。この緊張感と凛々…

『あらゆる文士は娼婦である』

石橋正孝・倉方健作『あらゆる文士は娼婦である 19世紀フランスの出版人と作家たち』、白水社、2016年を読む。 芸術作品はそれが流通する媒体と切っても切れない関係にある。19世紀フランス社会においてはペンで身を立てることが可能となり、作家が職業とし…

モーパッサン批評文『繊細さ』翻訳

別件で訳文が必要となるが、該当する評論文をまだ訳していなかった自分に腹を立て、一気呵成に翻訳を仕上げる。学祭(のお蔭の休日)に感謝。 モーパッサン 『繊細さ』 なお参照したかったのは次の箇所。 Quand un homme, quelque doué qu'il soit, ne se pr…

愛の根の深さ

学会の行き帰りにピエール・ルメートルの『傷だらけのカミーユ』を読む。いやはや暗いにもほどがあるのではないか、ピエール・ルメートル。ヴェルーヴェンが可哀相すぎる。思えば『その女アレックス』には、最後のところでヒロインに対するぎりぎりの同情の…

モーパッサンの未発表作?「天職」について

出版社Hermannが、創立140周年を記念する書籍を電子出版で刊行するにあたり、同社が保有していた手稿のコピーの画像、およびその転写と、それについての調査報告を掲載した、という話をメールマガジン"Maupassantiana"で知る。 Déborah Boltz, « Récit d'enq…

『ゴリオ爺さん』覚え書き

「それじゃあ」と、ウージェーヌは、うんざりしたといった顔つきで言った、「あなたたちのパリってのは泥沼じゃないですか」 「しかもへんてこな泥沼でね」と、ヴォートランは言葉をついだ。「馬車に乗ってその泥にまみれる連中は紳士で、徒歩でその泥にまみ…

モーパッサン「ディエップの浜辺」

モーパッサン 『ディエップの浜辺』 宿題の残り半分、モーパッサンのこれこそ新発見のテクスト、「ディエップの浜辺」の翻訳を掲載しました。 ご一読頂けましたら嬉しいです。 「豚の市場」の受けが良かったのか、雑誌の編集者からもう一本書いてみるように…

モーパッサン「豚の市場」

まる5ケ月を経て、誓いの半分を実現にこぎつけ、モーパッサンの新発見のテクスト1編を翻訳しました。 モーパッサン 『豚の市場』 ご一読いただけましたら幸いです。 青年モーパッサンによる豚の擁護と顕彰。そして「聖アントワーヌと豚はいかにして結びつく…

モーパッサン「戦争」(1881年版)

9ケ月ぶりにして本年最初の翻訳を掲載いたします。 モーパッサン 『戦争』 1881年4月10日に『ゴーロワ』に掲載されたほうの「戦争」と題する記事。 83年12月11日『ジル・ブラース』に掲載されたほうは早くから知られていたが、81年のこちらの方は同題で重複…

モーパッサンの2作品、発見のニュース

ブログLa Porte ouverte の1月28日の記事 DEUX TEXTES RETROUVÉS DE MAUPASSANT : LE MARCHÉ AUX COCHONS, LA PLAGE DE DIEPPE | la porte ouverte に、筆者の Monsieur N が、モーパッサンの知られてないテクスト2編を発見したと報告されている、ということ…

『即効! フランス語作文』の音声について

『即効(スグキク)! フランス語作文 ―自己紹介・メール・レシピ・観光ガイド』の音声は、10月末より、iTunes Store でのダウンロードが可能となりました(500円)。FeBeではもう数日かかる模様です。たいへん長らくお待たせいたしましたが、ご利用いただけ…

「モーパッサンを巡って」移転のお知らせ

このたび、長らくお世話になっていたlitterature.jp から独立することになりました。 モーパッサンを巡って なんと、maupassant.infoのオリジナル・ドメインを取得しての再出発になります。 再出発を祝うべく、翻訳を一本掲載いたします。ふと勢いで「首飾り…

『即効! フランス語作文 自己紹介・メール・レシピ・観光ガイド』

このたび、フランス語の練習問題集を刊行いたしました。 足立和彦・岩村和泉・林千宏・深川聡子・Chris Belouad、『即効(スグキク)! フランス語作文 自己紹介・メール・レシピ・観光ガイド』、駿河台出版社、2015年 http://www.e-surugadai.com/books/isb…

浅草のどじょう屋

あるアンソロジーで読んだ『放浪記』の一節が記憶に残っているので、現物を確かめようと思って読み始めたら、読めども読めども出てこない。ようやくたどり着いたのは、戦後に書かれた第三部であった。 (三月✕日) うららかな好晴なり。ヨシツネさんを想い出…

地獄の薔薇

なんの言い訳もしようのないエディット・ピアフ。伝記を読んでいた頃に描いたものか。 ピアフは終日終夜雨降り続く地獄の底にすっくと立ち上がり、腐った薔薇を掲げて、尽きせぬうらみつらみを歌いやまぬ。コクトーは遥かな一等席もしくは天井桟敷から意地の…

イヴァン・トゥルゲーネフ(『ジル・ブラース』)

引き続き、モーパッサンの評論を翻訳。 モーパッサン 「イヴァン・トゥルゲーネフ」 イヴァン・トゥルゲーネフに関してはこれが4つ目にして最後のものとなる。 4つの翻訳の間に間違いなく進歩したのは絵の技術であるが、その他はどうなのか、なんとも心もと…

ああ、ユゴー

Le Magazine littéraireの4月号に、「フランスを代表する作家は誰か」というアンケートを取ったという記事が載っている。35人の作家の中から6名までを選ぶ、という形式で、回答者は1,006名(18歳以上)。その結果は以下のとおり。括弧内は%。 ヴィクトール…

私生活のギュスターヴ・フロベール

モーパッサンの評論を一つ翻訳しました。 モーパッサン 「私生活のギュスターヴ・フロベール」 お読みいただけましたら幸いです。 それにしても「頑として肖像画を描かせなかった」という人の肖像を描いて喜んでいるのもいかがなものなのか。 それはともかく…

シャルル・クロの頭

引き続き、何枚かの肖像画を追加。 その中の1枚がシャルル・クロ。なぜかほぼ完成状態で放置されていたものを仕上げる(元写真はナダール撮影のものの由)。 シャルル・クロに関しては、現在、日本語でもしっかりとした研究を読むことができて素晴らしい。 …

念願のデッサン集

Dessins autour de Maupassant 2 ずっと作りたいと思っていたページを、えいやっと作ってみました。 自分でも把握できていなかった、これまで描いた肖像画をあらかた集めました。集まったのは、とりあえず33人分47枚……。(コクトーとかロチとか、この際の蔵…

自由思想

唐突に、やっぱり大事だろうあの記事は、という思いに駆られて一気に訳しました。 モーパッサン 『自由思想』 アンリ・ミットランはモーパッサンの批評文の中でももっとも暗いものの一つと呼ぶが、しかし「解説」にも記したとおり、社会生活上において我々の…

メヌエット

ふと思い立って、モーパッサンの短編小説を翻訳しました。 モーパッサン 『メヌエット』 とくに深い考えはなく、今回は短編集『山鴫物語』から一編訳してみよう、ということで、えいやと決めたのが「メヌエット」でしたが、新潮文庫、岩波文庫にともに翻訳の…

クリスマスの夜

モーパッサンの顰に倣うように、時事的な題材を選んで翻訳をしてみました。 モーパッサン 『クリスマスの夜』 お読みいただけましたら幸いです。 ルイ・フォレスチエの指摘するごとく、ここで語られるのは聖夜の「降誕」のお話であり、それは「同時にグロテ…

あるパリのアヴァンチュール

モーパッサン 『あるパリのアヴァンチュール』 モーパッサンの短編を翻訳しました。 新庄嘉章訳では「パリの経験」と訳されている作品。ここで aventure はもちろん「情事」も含意しているが、もう少し広い意味で「向こう見ずな冒険」のニュアンスを汲み取り…

うまくいかないこともある

最近読んだ本から、備忘のために脈略のない引用を残す。 トビを買いたいと思ったのは、雪がたくさんふった年のことだ。 (ユベール・マンガレリ、『おわりの雪』、田久保麻里訳、白水Uブックス、2013年、5頁) 準備はなにもいらない。学校の成績なんて関係な…

「親殺し」翻訳

これを機会にモーパッサンの短編の翻訳をしてみようと思い立ち、 モーパッサン 『親殺し』 モーパッサンの「親殺し」を翻訳してみました。 (全国の円朝ファンに)お読みいただけましたら嬉しい限りです。 短編の翻訳はなんと7年ぶりのことであります。 この…

対訳で楽しむ『脂肪の塊』第6回

『ふらんす』9月号に、 「対訳で楽しむ『脂肪の塊』」第6回(最終回)掲載されました(32-35頁)。 「脂肪の塊」不在の宴会の場面から、翌日の馬車の中の最後の場面まで、 コラムは「男性中心社会に生きる女たち」です。 お読みいただけましたら幸甚です。 …