えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

メヌエット

ふと思い立って、モーパッサンの短編小説を翻訳しました。
モーパッサン 『メヌエット』
とくに深い考えはなく、今回は短編集『山鴫物語』から一編訳してみよう、ということで、えいやと決めたのが「メヌエット」でしたが、新潮文庫岩波文庫にともに翻訳のあるメジャーな作品を選んでしまった、と後になって気づいた次第です。ま、それはそれでいいかと最近は思うようになりつつもあり。
失われた過去への哀惜の念が、モーパッサンにしては珍しく率直に滲んでいる好短編ではないかと思います。
ちなみに語り手は50歳の男性ですが、一人称は「わたし」(青柳瑞穂)、「ぼく」(高山鉄男)、「わし」(田辺貞之助、『モーパッサン全集』)、「僕」(えとるた)となっています。さすがに今時の50歳で「わし」は無いと思いますが、語りの印象を決める一人称主語はいつも悩ましい問題です。
ところで、この作品で、ずっと以前から気になっていることの一つは、老夫婦の踊りを見た語り手が「泣きたいと同時に笑いたい」と感じるところです。この「泣き笑い」の感情は、モーパッサンの文学を読む一つのキー・ワードになるのではないかと思っているのですが、なかなか話を発展させられずに今に至っております。
そんなところにもご注意いただきながら、ご一読いただけましたら嬉しい限りです。