えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

朔太郎とガンバ

無事12回目終了。「試験対策」となると、皆さん目の色が違いますね。がんばってちょ。


授業中、今はその気になればフランスにだって簡単に行けるいい時代だからね、
と話していてふと蘇ってきたのはいわずと知れた萩原朔太郎

旅上


ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背広をきて
きままなる旅にいでてみん。
汽車が山道をゆくとき
みづいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに
(『萩原朔太郎詩集』白凰社、1994年(新装版8刷)、146-147頁)

「新しき背広」に稟とした感じがあるところがいい時代だと思う。


ところで話は代わって、
斉藤惇夫作、薮内正幸画『冒険者たち ガンバと十五ひきの仲間』、岩波書店、1987年(9刷)
という本を今でも大事に持っているのである。
学校の図書館で何度も借りて、そんなに好きなら買ったらいいじゃないのと
本屋さんで注文してもらったのであり、図書券抱えて買いに行った時の喜びといったら
いやまあ懐かしいことだ。
もちろん『グリックの冒険』『ガンバとカワウソの冒険』との三部作である。
ま、昔話はいいのである。
この中にはドブネズミのガンバ達が歌う歌がある。

さあゆこう仲間たちよ
住みなれたこの地をあとに
曙光さす地平線のかなたへ
聞こえるだろう ほら
梢をゆする風の中に
流れ下る河の歌声が
(42-43頁)

と始まる、たいへん胸躍る歌だ。で、その中に

われら草の根をまくらに
旅を住処とし
久遠の郷愁を追いゆくもの
(43頁)

という言葉が出てくる。
そしてここに『氷島』所収の「漂泊者の歌」があり、その冒頭から。

日は断崖の上に登り
憂ひは陸橋の下を低く歩めり。
無限に遠き空の彼方
続ける鉄路の柵の背後(うしろ)に
一つの寂しき影は漂ふ。


ああ汝 漂白者!
過去より来りて未来を過ぎ
久遠の郷愁を追ひ行くもの。
いかなれば蹌爾として
時計の如くに憂ひ歩むぞ。
石もて蛇を殺すごとく
一つの輪廻を断絶して
意志なき寂寥を蹈み切れかし。
(『萩原朔太郎詩集』164-165頁)


そうか、「久遠の郷愁を追いゆくもの」は朔太郎だったのか
と個人的発見をして嬉しかったのも、もうずいぶんと昔のことではある。
ということを思い出しました、
という(いずれにしても)昔話でした。