えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

あらためてマンデス

仕事開始の前日。多少なりと緊張します。


たびたび名前が出てきたので、『エコー・ド・パリ』のマンデスの回答も訳しておこう。

 Ce qu'il faut admirer avant tout, me semble-t-il, en Guy de Maupassant, c'est le parfait équilibre entre le pouvoir et le vouloir. Soit que, par une rare sagesse intellectuelle, il ait réduit celui-ci à celui-là, soit que, par un long effort antérieur à la production, il ait haussé celui-là jusqu'à celui-ci, ils sont de niveau, coïncident et s'adaptent exactement. De là, dans le travail créateur, une continuité féconde, paisible, sans paroxysme ni dfaillance, et, dans l'œuvre réalisée, cet ordre, cette franche humeur, cette aise, qui, même lorsqu’il s’attache à des sujets acerbes ou troublants, nous communiquent de la sérénité. – Catulle Mendès
(L'Écho de Paris, supplément illustré, 8 mars 1893.)
 何よりもまずギ・ド・モーパッサンの内で賞賛すべきと私に思われるのは、能力と意図との間の完璧な均衡である。知性の稀なる叡智によって、後者を前者にまで還元したにせよ、あるいは、制作の前に長い努力をすることによって、前者を後者にまで高めたにせよ、両者は同じレベルに達し、一致し、正確に互いに適合しあっている。それ故に、創造の営みは豊穣かつ平穏に続けられ、絶頂も失墜もなく、そして実現された作品においては、あの秩序、あの裏のないユーモア、あの満足があり、それは辛辣だったり心を乱させるような主題と結び付く時にも、我々に静謐さを伝えるのである。――カチュール・マンデス

Catulle Mendès (1841-1909)
 ボルドーに生まれ、トゥールーズで幼少期を過ごす。1860年に『ルヴュ・ファンテジスト』Revue fantaisiste を創刊。63年最初の詩集『フィロメラ』 Philoméla 刊行。若い詩人達と交流し、1866年に第一次『現代高踏派詩集』 Le Parnasse Contemporain を刊行。「高踏派」の中心人物の一人となる。66年にテオフィール・ゴーチエの娘ジュディットと結婚(後に離婚)。1875年末から77年にかけて『文芸共和国』La République des lettres を刊行。1884年から『大衆生活』La Vie populaire 編集に携わっている。詩作の他に、多くの小説・戯曲を残した。小説に『敵対する母親達』 Les Mères ennemies (1880) 『童貞王』 Le Roi vierge (1881), 戯曲に、ゴーチエ原作の『キャプテン・フラカス』Le Capitaine Fracasse (1878)や『女王フィアメット』La Reine Fiamette (1889)等。ワーグナーのフランス紹介を最も早くに行ったことでも知られ、ワーグナーの評伝(1886)がある。
 モーパッサンは『文芸共和国』に詩篇を掲載。『大衆生活』は中短編を多数再録しており、この頃よりマンデスとの交流が深まる。小説「遺産」« L’Héritage » (1884)にマンデスへの献辞が見られる。マンデスの関与する『エコー・ド・パリ』にも晩年の小説が掲載された。
という感じで良かったかな。
「能力」と「意図」とは、くだけて言えば「できること」と「やりたいこと」であって、
後者より前者が上の人はあんまりおらず(たぶん)、
(本人が考えたこと以上のことを作品が成し遂げてしまう、ということはでもありそうな気もするが)
後者だけが先走ると、いわゆる「眼高手低」ということになるので、
マンデスはこの両者が一致していることを、稀なこととしてモーパッサンを評価している。
それは面白い評価だな、と思うのだけれど、果たしてその正否はいかがなものか、
なんだか判断がつきませぬ。
モーパッサンは彼が成し遂げたいと考えたことを十全に成し遂げたのか?
うーむ、それは難しい問いかけではなかろうか。
モーパッサンの作品には「静謐さ」がある、というマンデスの言葉は傾聴に値すると思う。