えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

モーパッサン

マゾッホ英訳

ザッヘル・マゾッホ、『マゾッホ情艶小説集』、木村毅 訳、白凰書院、1949年 なんていう本がありまして、他の版もあるが、中身は同じと考えてよかろう。 その「序」にいわく、 本譯のテキストにはマシイソン版の英譯を用ゐた。原作には當局の忌憚に觸れるや…

それは幾らなのか

文学と金の話。 1878年時点では、モーパッサンは日刊紙「ゴーロワ」に記事を掲載することについて ためらいを示していて、その理由として、 定期的に時評文を書けば下らないものができるし、 二時間で書いたものに署名なんかしたくない、という文学的矜持の…

モーパッサンを文庫で!

さて、sonさんコメントをどうもありがとうございます。 なんということ! 私などでも人のお役に立つこともある。良いことだ。 万が一、倍に膨らんだ期待を裏切ってしまうことになったらどうしましょう と些か不安になったりもしますが、 その場合(考えてど…

何から読むべきか

そうですねえ、『われらの心』(『男ごころ』でもいいのだけど)からモーパッサンを読むというのは 強くお勧めする自信が、ちょっと持てないかなあ、と、馬鹿正直に申し上げます。 もっとも、「なんでもいいからとにかく読んで!」というのが一番率直な思い…

『男ごころ』について

『男ごころ』は、1890年に出版されたモーパッサンの長編、Notre cœur の邦題。 春陽堂全集3巻では品田一良によって『われらの心』と訳されていて、こちらが直訳(「心」は単数)。 ちなみに、『男ごころ』と意訳したのは昭和26年の中村光夫訳。 『われらの心…

旅行の準備

Préparatifs de voyage, 1880 モーパッサンはどうなったんかいな、とさすがの私も自分でも思うので、 初心に帰るべく努めます。 5月31日『ゴーロワ』掲載。 Les Dimanches d'un bourgeois de Paris 『パリのあるブルジョアの日曜日』 と題された連作短編の第…

『かもめ』とモーパッサン

チェーホフ、『かもめ・ワーニャ伯父さん』、神西清 訳、新潮文庫、2006年(48刷) 金曜日、チェーホフの話が出たので、勢いで四劇作再読。 チェーホフ劇の人物は、みんなして自分の自我に、あるいは自分の抱く幻想に 閉じ込められているので、ほとんど会話…

モーパッサンと海、ヨット

ダニエル・パルドー、足立和彦、「モーパッサンと海、ヨット」、『Sea Dream』、vol. 9、2009年7月 、p. 116-121. ヨット・ボート雑誌の舵社ホームページ ご縁があって、私も執筆に加わらせていただきました。 そうです、商業誌デビューですよ!! 大型の雑…

ドイルのあわや偽作ばなし

コナン・ドイル、『シャーロック・ホームズの読書談義』、佐藤佐智子 訳、大修館書店、1989年 この中に「すんでのところでモーパッサンの偽作者」という章があって、 これは何じゃろなと思って読んでみた(のはけっこう前の話だけど)。 ドイルがスイスを旅…

暗夜行路

偽作の元ネタが分かったのはそれはそれとして、だから何なんだ、ということこそ 考えなければならなかろうが、だから何なんでしょうか。 「食後叢書」の3分の1からが偽作であったという事実は、ふつうに考えて モーパッサンの受容において些細なことではなか…

偽作の出所(7)補足あれこれ

いろいろあって大変。 まず、リシュパンから。Kさん見てますか〜? Jean Richepin, Truandailles, Charpentier, 1890. の内、 "Pouillards"が、7 "The Clown"( 4, 2) "Ch'tiote"が、8 "Babette" (4, 1) の元であったことを、遅まきながら確認する。 ついで、…

『女の一生』パンフレット

古本屋に出ていて思わず購入してしまう。 東劇のパンフレット、1959年のNo. 160 は、アレクサンドル・アストリュックの『女の一生』 ジャンヌ役はマリア・シェル。 イヴ・モンタンの『シャンソン・ド・パリ』と二本立てというのが、 いやまあ、ええ時代でご…

モーパッサン、わが従兄

Hubert Leroy-Jay, Guy de Maupassant, mon cousin, Luneray, Éditions Bertout “La Mémoire Normande”, 1993. 著者は、ギ・ド・モーパッサンの母ロールの妹ヴィルジニー(1830-1906)の曾孫さん。うーむ。 この人のおばあさん(=ヴィルジニーの娘)旧姓カト…

水の上

Sur l'eau, 1888 行きがかり上、数日かけて『水の上』を読みなおす。 翻訳は、 モーパッサン、『水の上』、吉江喬松、桜井成夫 訳、岩波文庫、1997年(6刷) が、今は品切れ中かと思うので、復刊か重版か再販か分かりませんが、出してくれへんかいなあ、と思…

ベラミ号

ところで「モーパッサンと海」を巡るお仕事をありがたくも頂き、 にわか勉強。 モーパッサンとヨット。 まずはセールボート「ルイゼット」1884年頃購入? 1886年、「ベラミ」1号は 1881年に作家ポール・ソニエールが建造させた「フランベルジュ」号が 後に「…

口髭・宝石

モーパッサン、『口髭・宝石』、木村庄三郎 訳、岩波文庫、2009年(9刷) 初版は1954年。 なんでも「リクエスト復刊」だそうなので、リクエストされた方がおられたのでしょう。 オールド・ファンていうのでしょうか。めでたいことでごじゃった。 なのでここ…

白亜の家の女

『モーパッサン短篇集 白亜の家の女』、平野威馬雄 譯、翰林社、1946年 という本があり、タイトルからして問題ありなのは以前から知っていたのを 思いついて入手してみる。いやあ物好きだなあ。 目次を見てみよう。 1. メニュエット Menuet 2. むかしの紀念…

シモンのパパ

Le Papa de Simon, 1879 「レフォルム・ポリティック・エ・リテレール」(政治文芸改革)誌、12月1日。 1881年『メゾン・テリエ』に所収。 「リヨン・レピュブリカン」(共和派リヨン)紙、1880年6月13日、 「ランテルヌ」1889年3月17日付録、Ripの挿絵つき…

「食後叢書」補足

細々「食後叢書」の現物を貸借してみているものの、ものがものなので 図書館外持ち出し禁止、ものによってはコピーも禁止で、 当然の処置とは知りながら、なかなか苦労する。 今日ようやく確認した、ごく些細なこと2点だけ。 食後5巻の"Mad" は、山川篤さん…

偽作の出所(6)メズロワ(3)

なにはともあれ、結果を見れば一目瞭然。 René Maizeroy, En folie, Ollendorff, 1894 1. En folie (17. Mad [5, 3]) 2. Naufrage (16. Wife and Mistress [4, 4]) 3. L'Excommuniée 4. Cambriolage sentimental 5. Les Inquiets 6. En route 7. Une suite 8…

マゾッホ、1873

Leopold von Sacher-Masoch, Materialien zu Leben und Werk, herausgegeben von Michael Farin, Bonn, Bouvier, 1987. という本が出ていたのですね。『ザッヘル=マゾッホの生涯と作品についての資料集』。 雪解け前の西ドイツで、さぞご苦労な仕事であった…

白鳥とLost

長いけれど引用。久し振りの正宗白鳥。 "Lost" といふ簡にして要を得た小品がある。「戀は死よりも強し。だから、また、戀は最大な苦痛よりも強し。」という實例が提供されてゐるのだ。この小品の語るところによると、或る株式仲買人が若い男爵夫人を猛烈に…

マゾッホ『社会のシルエット』

要点をかいつまむと、 Startseite - Österreichische Nationalbibliothek オーストリアの国立図書館のサイトで、次の本が電子化(画像)されている。 Leopold Ritter von Sacher-Masoch, Soziale Schattenbilder, Aus den Memoiren eines österreichischen P…

偽作の出所(5)ジャン・リシュパン(2)

括弧の中は例によって、最初が「食後叢書」、次がダンスタン版の巻数。 Jean Richepin, Cauchemars, Charpentier, 1892 1. Pft ! Pft ! 2. Une aventure (An Adventure, 7, 3) 3. Immortalité 4. L'Homme aux yeux pâles (The Man with the Pink Eyes, 7 ; T…

英訳について幾つかの発見

また初心に帰って、Webcatを見ていて発見した3点。 まず「食後叢書」こと The After-Dinner Series に、『ベラミ』も翻訳されて いたということ。所蔵は1館のみ。出版年不明。翻訳者は不記載。 たぶん表題は A Ladies' man。 それから同じ「食後叢書」。 Jea…

改めて66編の偽作一覧

唐突に掲載。 苦節1年数カ月。スティーグミュラーよありがとう。大西忠雄よありがとう。 あなた方のお仕事には助けられました。 しかし問題はやはり「食後叢書」である以上、改めてリストを作りなおしてみました。 Liste des 66 œuvres faussement attribuée…

ハリスの証言

ベナムー先生のメルマガ2007年1月と 2月の引用の間には 約1ページ分の省略があって、これは先生の「検閲」 によるものかどうか考える。 ま、全部は長いので(といって私も部分検閲)、 当該個所を引用してみましょう。 (写真は、かえるがどうしてもと言うの…

名句の出所は?

ところでフランスの絵葉書には、著名人の名句を使った シリーズがあって、私が見たことあるモーパッサンのは二つ。 ひとつは Un baiser légal ne vaut jamais un baiser volé. (« Confessions d'une femme » (1882), in Maupassant, Contes et nouvelles, Ga…

ベッドのそばで

Au bord du lit, 1883 「ジル・ブラース」、10月23日、モーフリニューズ署名。 1886年、『ムッシュー・パラン』所収。 1888年、「ラ・ランテルヌ」、8月26日に再録。 ト書き(イタリック)と台詞のみからなる作品、 つまりは上演を前提としない脚本と言って…

十一号室

La Chambre 11, 1884 「ジル・ブラース」、12月9日。『トワーヌ』所収。 「ラ・ランテルヌ」、1888年2月19日、「ラ・ヴィ・ポピュレール」、1888年7月5日。 冒頭は二人の対話。ペルチュイ=ル=ロン Perthuis-le-Long の 裁判長アマンドン氏が何故転任になっ…