えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

モーパッサン

夜会

Une soirée, 1883 前ふっておきながら、いつものようにロマンチックではないお話。 「ゴーロワ」、9月21日。 1900年『行商人』に初収録。 ノルマンディーはヴェルノン Vernon の公証人サヴァル Saval 氏は、 地方ではいっぱしの芸術家で通っており、音楽を熱…

田園

Aux champs, 1882 「ゴーロワ」、10月31日。1883年『山鴫物語』所収。 1883年10月11日「ヴォルール」、「ラ・ヴィ・ポピュレール」1884年1月10日。 1886年『短編集』Contes choisis 収録。 1891年3月5日「ラントランシジャン・イリュストレ」、 同年6月20日…

偽作の出所(4)メズロワ(2)補遺

とはいえ嬉しいものは嬉しい。 René Maizeroy, La Fête, Ollendorff, 1893 (2e édition) ネット上に掲載されているこの作品集の短編の内、少なくとも4編が モーパッサン偽作の正体であることは、既に確認済みなのであり、 ようやくその全貌を明らかにするこ…

友人ジョゼフ

L'Ami Joseph, 1883 「ゴーロワ」紙、6月3日。1899年『ミロンじいさん』所収。 結婚してノルマンディーは トゥルブヴィル Tourbeville の城館に住む ド・メルール氏 M. de Méroulは幼友達の ジョゼフ・ムラドゥール Joseph Mouradour とパリで再会する。 ジ…

ユッソン夫人ご推薦の受賞者

Le Rosier de Mme Husson, 1887 「ヌーヴェル・ルヴュ」、6月15日 1888年3月にカンタン書店から独立した単行本、Habert Dysの挿絵入りで刊行。 10月に同じカンタンの同名の短編集に収録。 マニュスクリ一編存在。 語り手 Raoul Aubertin はノルマンディーのG…

ダンスタン版の元は

あちこちに書いて散逸して訳分からないけど、 要するに1896年頃、ロンドンで出た「食後叢書」こと After-Dinner Series 12巻には66編からの偽作がまぎれて おり、どういうわけだか、1903年にアメリカで出た W. Dunne なる人物編纂の『モーパッサン全集』17巻…

「あぶら饅頭」序

それはそうと先日さらりと書き流しましたが、 (たぶん今はなき)太虚堂書房から出た 丸山熊雄訳『モーパッサン選集』第4巻とは、 まさしくあのモーパッサン翻訳史上唯一、 "Boule de suif" を「あぶら饅頭」と訳したブツである。 せっかくなので我等がご本…

もしかしてマゾッホ?

Davide Biale, "Masochism and Philosemitism : The Strange Case of Leopold von Sacher-Masoch", Journal of Contemporary History, vol. 17, no 2, april 1982, p. 305-323. という論文の313ページに、 "Die Venus von Braniza" という作品の名が挙がって…

『アンジェリュス』17号

マルセイユの「モーパッサン友の会」の雑誌、 L'Angélus, bulletin de l'association des amis de Guy de Maupassant, no 17, décembre 2007 - janvier 2008. 最初にビヤンヴニュ先生によるご紹介があって、 その後4頁から19頁までが "Maupassant au Japon" …

『詩集』という題

ところで、パスカル・デュランのフォリオテック マラルメ『ポエジー』を読んでいたら48ページに こんなことが書いてある。 Poésies という題の付け方は ジュネット言うところのテマティックならぬレマティック rhématique なもので、物としてのテクストその…

食後叢書の仏語原本

モーパッサンの英訳短編集、 「食後叢書」こと The After Dinner Series が元にした フランス語原書はなんだろうか。 それを突き止めるには、そもそも「食後叢書」はいつ出たのかが まず問題だ。 大英図書館のカタログには1896年発行と書かれていて 田山花袋…

タッサールの思い出

届いた本の一冊。そういえばこれもKさんに教えてもらいました。 Souvenirs sur Guy de Maupassant, par François son valet de chambre, Villeurbanne, Editions du Mot Passant, 2007. オリジナルはPlon, 1911。 文字通り『召使フランソワによるモーパッサ…

食後叢書の後裔?

それはともかく、さらに驚いたことが実はある。 Kさんはプロジェクト・グーテンベルクの中のモーパッサン英訳で "Kind girls" を確認した、とおっしゃるのである。 最初はふーん、と思っただけながら、よく考えるとそれってどういうことですか。 Free ebooks…

BD『エラクリウス博士』

J. -S. Bordas, Le Docteur Héraclius Gloss, d'après Guy de Maupassant, Delcourt, 2004. なんとびっくり、モーパッサンの中でも確実に 一二を争うマイナー作品、わが『エラクリウス・グロス博士』 なのである。こんなものをマンガにしてしまう 人がいると…

モーパッサンのBDのこと

中の一冊が、衝動買いした、 モーパッサンのコントをマンガ化した Guy de Maupassant Les Contes en BD, Petit à petit, 2007 である(写真右)。 がしかし、中身を開くと一目瞭然。 Contes de Maupassant en bandes dessinées, Petit à petit, 2005 と全く…

もう一人のモーパツサン

Sandrine de Montmort, Un autre Maupassant. Dictionnaire, suivi de "Le Canular de Le Corbeau" par Jacques Bienvenu et "Souvenirs de Mamdame X", Scali, 2007. サンドリーヌ・ド・モンモールという人は小説家だそうだ。 この「辞典 もう一人のモーパ…

原抱一庵と「女探偵」

さてその原抱一庵(1866-1904)に、 『泰西奇文』、知新館、明治36(1903)年 という翻訳書があり、トウェイン、ストロング、ドイル、エッヂワース の次に「モーパツサン」の名前があり、三作品訳されている。 そのタイトルが凄い。 「大頓挫」 「女探偵」 「再…

コルシカというトポス

コルシカはモーパッサンと縁が深い。『女の一生』のジャンヌの新婚旅行先は コルシカを経由してイタリアを巡るのだけれど、メインはコルシカであり、 イタリアは完全に省略されてしまう。 それもその筈、1880年9月に彼はコルシカに 旅行し、「コロンバの故郷…

ラ・ギエット館(まだ)売出し中!

La Guillette – Maison de Maupassant à Etretat もうフランス語ができなくてもなんでもいいからぜひご覧あれ。 ノルマンディーはエトルタ(!)にあるモーパッサンの別荘 その名もLa Guillette (ギイちゃんのお家)が売りに出されたのは 昨年のことで、誰…

モーパッサン、タヒチ、ロチ

ところでモーパッサンの全作品をコーパスに"Tahiti"で検索をかけるとどう出るか。 無いだろうと思っていたら、意外や一件だけヒットする。 「パリからルーアンへ」、『ジル・ブラース』、1883年6月19日、モーフリニューズ署名 で、クロニックに分類されてい…

食後叢書12巻

牧義之、「英訳モーパッサン短篇集「食後叢書」に関する考察(承前)―翻訳から見る第十二巻の存在―」、『北の文庫』第47号、2008年、p. 8-23. 前回の論文は「食後叢書」幻の第12巻は存在した、という発見についてだった わけだけれども、ではその十二巻は日…

田山花袋の翻訳・翻案

今後のために単純にメモ書きしておくだけ。 「食後叢書」の英題(およびダンスタン版題)と仏語原題を付し、 括弧内の数字は最初が「食後叢書」、次がダンスタン。 最初の二つは「オッド・ナンバー」からの訳なので面倒なのは省略。 「二兵卒」、『少年文集…

独歩「糸くず」

国木田独歩の訳も細かく見れば、訳してない箇所もあり、誤訳もある。 フランス語の読みは間違っているかもしれない、と『武蔵野』初版にはちゃんと 但し書きがしてあるのだけれど、Hauchecorne オッシュコルヌがアウシュコルンになっている ようなのはご愛敬…

パリの経験

Une aventure parisienne, 1881 (というわけで今更変えるのも何なのでイタリック。) 12月22日「ジル・ブラース」、モーフリニューズ。 『マドモアゼル・フィフィ』(初版、再版)に所収。 「ラ・ヴィ・ポピュレール」、1884年8月14日再録。 aventure は実…

モランの豚やろう

Ce cochon de Morin, 1882 それにしても、そういつまでも日本に目を向けているわけにもいかないので、 再びモーパッサンを読むことにしてゆこう、と思う。 その最初がこれというのも何だけれど、長田秋濤がこれを訳して「豚林」(ぶたりん)と題した という…

モーパッサンと上田敏

上田敏の所持していた「オッド・ナンバー」を柳田国男から国木田独歩、田山花袋 と借り回し、独歩と花袋がそれぞれ翻訳したのが、ほぼ日本初訳ということで 有名なのである(ということはもう何度も書いたかな)。 備忘録に記しておきたいのは、それより前に…

志賀直哉とモーパッサン

「モーパッサン全集」の 戦前の代表が天佑社であれば、戦後はもちろん春陽堂だけれど、 1955-56年に出た版は完結したのかしなかったのかよく分からず(たぶんしなかった) それでも、21巻の予告中、16巻までは確かに出た。 雪辱を期してかなんだか、その十年…

美貌の友

モオパッサン著、廣津和郎譯、『美貌の友(原名ベラミイ)』、天佑社、大正11(1922)年10月20日発行、11月20日20版 というのを購う。写真は外箱で、お値段はちなみに2100円。 ポイントは右下隅にある(改版)の文字で、 これは実は天佑社版『モウパッサン全集…

荷風、白鳥こぼれ話

昭和十三年秋に、アメリカのモーパッサン研究家アルティーヌ・アルティニアンという人が、モーパッサンについてのアンケートを世界中の知名な文学者に向って発したことがある。わが国では荷風と正宗さんのところにそのアンケートが来たが、荷風は答えず、正…

白鳥「モウパツサン」(2)

二回目以降の内容については、時代の証言として貴重な箇所は それほど見られない。40年ぶりに読み返しての新たな感慨は、それはそれと して聞くべきものもあるのではあるけれど。 そういうわけでめぼしいところだけを押さえるにとどめる。 たとえば『女の一…