えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

奇巌城

モーリス・ルブラン、『奇巌城』、石川湧 訳、創元推理文庫、2003年(47版)
高校生の素人名探偵ボートルレとリュパンの対決
だなんて完全に失念しておりました。Bacも受けずに何やってんだ
と思わないでもないベル・エポックのぼんぼんではある。
相変わらずのエルロック・ショルメスことホームズ
(ホームズことエルロック・ショルメス、か)
の悪役ぶりも随分と無茶な話ではある。
しかし、なんといってもエトルタの Porte d'Aval の前のあの岩の
中身が空洞でそここそはフランス王家の秘密基地だった
という想像には酔い痴れます。リュパンはそこにジョコンダの本物まで
隠していた、というのだからもうたまらない。
ああエトルタ。再び訪れられる日の近からんことを。


さて、結局のとこモーパッサンとルブランとの繋がりは
ノルマンディー以外にさしてないのか、とも思いつつ、
実はモーパッサンは、この「令嬢たちの部屋」と呼ばれる
岩場の洞窟(は『女の一生』にも出てくるけど)を題材に
一篇のバラードを作っている。ギィ君若干21歳の作品で、
「エトルタの「令嬢たちの部屋」についての伝説」という。
モーパッサン 他詩編
に訳してみましたので、乞うご一読。

Lentement le flot arrive
  Sur la rive
Qu'il berce et flatte toujours.
C'est un triste chant d'automne
  Monotone
Qui pleure après les beaux jours.

7・3・7・7・3・7で韻はaabccb、全15節のこの詩篇
構成はなかなか独自のものがあり、
モーパッサンではついぞ他に例のない音楽的なものといえ、
なかでもautomneとmonotoneとの響きはまるでヴェルレーヌ
というわけで「詩人モーパッサン」を考える上ではなかなか
興味深いものの、韻は平凡、語句は冗長、という厳しい評価
も一方にはある。
かつて領主が三姉妹を閉じ込め、海に落して殺したという言い伝え?
が実際にあったそうで、それが「令嬢たちの部屋」の名の由来そのもの
なのかどうかまで調べていないけれど、それを独自にアレンジしたのが
この若きモーパッサンの一篇となった由。まだロマンチスムに浸る
二十歳の頃のモーパッサンをあらわしているかのようでもあり、
こういう作品ももっと残してくれれば、面白かったのになと思う。