えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

バーネット探偵社

モーリス・ルブラン、『バーネット探偵社』、堀口大學 訳、新潮文庫、1969年(12刷)
これは古くて、新潮文庫がまだパラフィンだった時代物。
久し振りの「わし」がたまりませんな。
1927年、Lectures pour tous に3編掲載。
翌年、ラフィットより刊行時、短い前書きがついて、バーネット実はリュパンなり、
ということになった。
最初はリュパンじゃない人物を描くつもりだったのに、それがリュパンに「回収」されて
しまったのは、出版社の要請だったのか、どうなのかよく分からない。後にベシューを
再登場させることで、事後的にリュパン・シリーズにしっかりと組み込まれることにはなった。
リュパンから逃れたくて、やっぱり逃れられなかったルブラン、というお話で、
つまるところ、リュパンとはっきり異なった人物を、作者は作り出すことができなかった
ということになるのかもしれない。
バーネットというイギリス名の私立探偵ながら、皮肉でふざけ好きで、ピンはねに長けている、
という、いわば(フランス的)アンチ・シャーロック・ホームズをもってして、
あるいはコナン・ドイルに挑戦するつもりがあったのかも、と想像させもするけれども。
それはそうと、きっちり落ちがつくこの種の短編をまとめるルブランの手腕はなかなかのもの。
リュパンの告白』『八点鐘』と並んで、甲乙つけがたい佳作と思いました。